【掌編】監視者

それは、見守りという名の監視ではないだろうか。人籠とでも呼ぶべき部屋の中で、彼はようやく涼を得ている。  「外は暑いよ。とても耐えられない暑さだよ。だから君は、その中で穏やかに過ごすといい。ああ、鍵なら預かっておくよ。君 […]

【掌編】初期化

パソコンにできて人間にできないことの一つに、初期化がある。人間は初期化することができない。 果たして本当にそうか、試した者がいた。ラスティング博士である。博士は、野原を散歩していた少女をディナーに誘い、ビーフシチューを振 […]

【掌編】見えない

目の悪いらしい老婆が眼鏡を上下させながら、見えない、見えないと呟いていたので、何かお探しですかと声をかけたところ、愛はどこかと問われたので困ってしまった。老婆はかつては少女で、その頃から探し続けているのだという。哀れな老 […]

【掌編】金魚

「人魚はね、金魚を食べた人間の成れの果てなんだ。くちゃりと音を立てて食べられた金魚の恨みが、人間を人魚へと料理していく。だから、金魚は食べちゃダメだよ」 その話を祖母から聞いた調律師は、どうしてもその「くちゃり」が聞きた […]

【掌編】つづれ織り

今どき、パソコンはおろかスマートフォンも携帯電話も持ち込み禁止の病棟に、私の大切な人が入院している。 彼がいるのは精神科の閉鎖病棟だ。通信機器の禁止は外部の刺激を遮断するためという理由らしいが、本当は病棟の内情を隠したい […]