白鴉

彼が神を自称しはじめてからも、私たちの生活になにか大きな変化が起きたわけではない。 彼は相変わらず寝坊するし、派手に忘れ物をするし、よく椅子の端にかばんの紐を引っかける。 自称とはいえ神なら予言のひとつもしてみたらどうか […]

ピンク

たぶん、と前置きしてきみはいう。 桜が満開になったら、綻びは繰り返すと思うんだよ、なんて。 近所のかりんの花が咲き始めて、若葉の隙間から鮮やかなピンクを覗かせているけれど、私はあの色があまり得意じゃないの。 それはよかっ […]

沈黙

1 赤い羽根飾ったひとの何割が鳥の痛みを思うのだろう 2 いっせーの、でジャンプをしよう二分後に特急新宿行きが来るから 3 テーブルに並ぶナイフとフォーク見て「切って刺す」って呟いたきみ 4 花束と拳銃ならば花束を選んで […]

5秒後の視界

悲しいニュースが流れると、彼はグラス一杯の水を飲む。まるで厳かなルーティンのように、蛇口をひねる音がすると、私に微かな焦燥が生まれる。 私たちの知らない街で、私たちの知らない人が殺害されたらしい。事実がこれでもかと粉飾さ […]