ケーキ

ホールケーキを等分にするためだけに

アリスがナイフを振るう

縦に切って

横に切って

斜めに切って

反対側も斜めに切って

ケーキは八等分になったけれど

春、夏、秋、冬、雨、雪、雷、風、アリス

テーブルには九名座っていたから

平等を守るために

ただそれだけのために

ケーキを切り分けたナイフで

アリスがナイフを振るう

みんなの見ている前だったのに

誰にも気づかれることもなく

地球儀に抱かれたままのアリスは

アイデンティティから手放した

アリスはケーキが大嫌いだとして

ケーキを欲しがるみんなを責めて

そんなに甘いものが欲しいのなら

ぜんぶくれてやるわと吐き捨てて

のっかった苺は母親だと主張して

3ミリずつスライスしはじめた

(これが史上初の殺苺事件である)

おやめよ、と春は

やめてよ、と夏は

やめなと、と秋は

やめとけ、と冬は

なんなの、と雨は

どうして、と雪は

おいおい、と雷は

あーあー、と風は

結局他人事としてやりすごした!

コンタクトレンズを入れ直したら

少しはマシな世界が見えるかしら

不機嫌なアリスは天気図を指さし

こいつらのせいで苦しいのですと

ケーキを切り分けたナイフを振るう

春が死んだら夏が来て

秋が背後から侵食し冬に化け

それが饐えたら春になる

雨も雪も雷も風も共犯であり

決して誰もアリスを許さない

季節外れも的外れも上等だ

アリスは倫理の中に生きていない

もはや概念として巣食うのだ

誰の心にもアリスはいる

都合が悪くなると、と、

いともたやすくナイフを振るう

アイデンティティの破滅した

ピンクのリボンをテールに巻いた

アリスという名の女の子が

じっと佇んでいるのだ

濡れているのは雨のせい

凍えているのは雪のせい

怯えているのは雷のせい

自由でいるのは風のせい

誰かのせいにできるだけ幸せさ

春夏秋冬四六時中未来永劫

アリスは倫理の円環の外側で

地球儀を回し続けている

平等であるためにそのためだけに

ナイフ片手に今

あなたの後ろに

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