金魚

例えば真白な紙を渡されて
「お好きに描きなさい」
などと言われたら私の右手は萎縮する

また譜面を渡されて
「思うままに奏でなさい」
などと言われたら私の両手は萎縮する

泣くほどのことじゃないから
そこで流す涙など欺瞞の塊だよと
通りすがりの優しい人が教えてくれた

泣くほどのことじゃないから
誰も何もかばってくれないので寂しげに
突っ立ったままの私、雨が過剰演出
街の景色に残らない私の影は
部屋の中で私に話しかける

知らないことは多い方がよかったんだ
キャンバスは真っ白でもよかったし
不器用な手で弦の切れたギターを弾けばそれで
許される気がした そう 許される気がした

あの日の自分に あの場所にいた奴らに
私からとても大事なものを奪って踏みにじった彼に

結局……
寂しいだけなのかもしれないと
リビングの金魚に尋ねてみた
金魚は口をパクパクさせて
ただゆらゆららと泳いでいる
ただ泳いでいる
決して羨ましくはないが
なぜ自分に尾ひれが無いのか神様を呪った月曜日

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